📂 シリーズ:なぜ“住みやすい街”から人が出ていくのか?
第1章「住みやすさと『住みたい』のズレ
地元の集まりに久しぶりに顔を出したカクトくん。そこには、変わらない温かさがあった。
でも、ほんの少しだけ胸に引っかかる違和感もあった。
“あれ、なんでこんなに懐かしいのに、息苦しく感じるんだろう?”
みんなは変わっていない。
でも、自分は……少し変わったのかもしれない。
守ること、変わること。
それは同じくらい、大切なもののはずなのに。
今のカクトくんには、それがどうしても、簡単なことには思えなかった。
そのもやもやを抱えながら、カクトくんはまた、ヨミノ博士の部屋を訪れた。
博士、なんで変わるのって、あんなに怖いんでしょう?
いい質問ね。変わると未来が見えなくなるでしょう?人間の脳は、未知を本能的に怖がるの。
たしかに…。知らない道を進むのって、勇気いりますもんね。
それにね、変わるには、とても大きなエネルギーが必要なのよ。
エネルギー…。今のままでいた方が楽だから、余計に動けなくなるんですね。
そう。だからこそ、人は変化を先送りしたくなるの。
でも社会って、勝手にどんどん変わっていきますよね?
ええ。社会情勢が変われば、人の心も自然に変わるわ。
じゃあ、変わらずにいると、気づかないうちに人が離れていっちゃう…?
静かに、でも確実にね。
国とか地元も、外から攻められるんじゃなくて、人の心が離れて滅びるんだ…。
そのとおり。崩壊は、外からの力よりも、内側の心の離反から始まるのよ。
でも博士、国と地元って違うじゃないですか。国は外から軍隊が攻めてくることがあるけど、地元は……そんなことないですよね?
いいところに気づいたわね。確かに地元は武力で攻められることはない。でも──
でも……?
他の地域に心を奪われる。魅力的な街に関心を持って移住されてしまう。それは、静かに『攻められる』ことと同じなのよ。
あ……なるほど!戦いじゃなくても、心を持っていかれたら、町は静かに空っぽになっちゃうんだ…!
そう。誰も責めるわけじゃない。でも心をつなぎ止められなかったら、町はやがて消えていく。
……やっぱり、心を守るってすごく大事なんですね。
ええ。外敵を防ぐよりも、心を守るほうが、地元にはずっと大切なの。
でも博士…。変わるって、すごくエネルギーがいりますよね?
そう、ものすごくね。だから昔の偉人たちも、変わることには苦労したのよ。
昔の人たちも?
たとえば、『貞観政要』に登場する唐の太宗。彼は立派な統治をしたけれど、時がたつにつれて慢心しそうになることもあったの。
えっ、あの太宗が!?
そう。でもそのとき、家臣たち──特に魏徴が、何度も諫めたの。『慢心すれば民の心は離れ、国は傾きます』って。
民の心が離れる……。やっぱり、滅びるのは戦いじゃなくて、人の心の問題なんだ…。
ええ。そして太宗は、それを素直に受け止め、自分を律して、常に変わり続ける努力をしたのよ。
すごい…。でも、そもそも……。
なにかしら?
変わるのにそんなにエネルギーが必要なら、いっそ、エネルギーを使わなくてもいい社会にしたらいいんじゃないですか?
ほう、それはまた鋭い発想ね。
たとえば……みんなが異なっててもいいって当たり前に思えたら、誰かが変わっても怖くないし、変わらない人を責めることもないですよね!
……カクトくん、あなた天才?
えへへ…。
本当にそうよ。みんな違っていていい社会なら、変わることに無理にエネルギーを使わなくてもいい。違いを恐れず、自然に変化できる。そんな社会こそが、未来をつなぐの。
……なんだか、未来がちょっとだけ優しく見えてきました。
それはカクトくん自身が、未来を信じる目を育てたからよ。
変わることには、本来、大きなエネルギーが必要だ。
でも、もし――みんなが異なることを当たり前に受け入れられたら。
変わることも、変わらないことも、そんなに怖いことじゃなくなるのかもしれない。
誰かを急かす必要もない。
誰かを置いていく必要もない。静かに、それぞれのペースで。
違うままに、つながりながら。
そんな社会なら、変わることに勇気なんて、きっともう、いらない。
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